TBS コンプラ担当 井田利重氏

コンプラ担当がなぜ?TBS「交際費不正精算」180件の核心

何が起きたのか?

2025年12月25日、TBSホールディングスは公式リリースで、交際費の不正精算が少なくとも180件、総額約660万円に上ると公表しました。

不正は取締役会直轄の内部監査部門が検知し、第三者委員会の調査で確定。会食費を中心に領収書の虚偽添付や、実際に行われていない打ち合わせ名目の精算が判明しました。

世間を驚かせたのは、ガバナンス改革を推進してきた“コンプラ担当役員”自身が主導的に関与していた点であり、「守る側が破る側」という構図が報道各社の見出しを埋め尽くし、SNSのトレンド入りの不名誉も果たしてしまいました。

発覚の経緯とTBS側の公式発表

最初の兆候は2025年10月頃、経理部門が経費明細の定期チェックで“同一店舗・同額の請求書が短期間に集中している”ことに気付き、内部監査にエスカレーションしたことから始まります。

社外公認会計士を含む調査委員会は2か月間で関係書類2500枚以上を精査し、180件の不正を特定。12月25日付でTBSHDはプレスリリースを配布し、担当常務の辞任と全額返金を発表しました。

公表にあたっては「法令順守体制を強化する」と強調したものの、詳細な手口や関与者の人数は非開示で、情報開示姿勢を疑問視する声も上がっています。

180件の不正精算:交際費・会食の何が問題だったか

今回の不正精算は、主に“番組関係者との打ち合わせ”や“スポンサー接待”を装った架空・水増し請求が中心です。

実態としては開催されていない会食を設定し、系列飲食店から白紙領収書を受領後に金額を書き込み精算する手口が多用されました。

さらに、実際の会食が存在したケースでも、同席者人数を水増しして単価を引き上げるなどの“グレーゾーン拡大術”がみられ、組織的チェックを潜り抜ける巧妙さが特徴です。

交際費は原則として取引目的の実在性・相当性が求められるため、証憑の改ざんは会社法上の業務上横領、税務上の損金算入否認リスクを招きます。

「コンプラ担当が関与」が注目される理由

一般社員の不正と違い、コンプライアンス担当役員は社内規程策定や教育監督を担う“最後の砦”です。

その人物が不正に加担すると、
①チェック体制の形骸化
②通報窓口の形だけ運用
③役員レベルの権限乱用
という三重のリスクが顕在化します。

結果として、不正の発見が遅れ被害額が膨らむほか、社外への説明説得力が致命的に低下し、企業ブランドの毀損が加速度的に進行する点が最大の問題といえます。

井田重利とは:経歴とTBSでの役割(プロフィール整理)

TBS コンプラ担当 井田利重氏の経歴は?
引用元:https://x.com/2018nyanya/status/2004156436172214561

井田重利氏は1965年生まれ。早稲田大学政治経済学部を卒業後、1989年にTBS(現TBSテレビ)入社。

営業局でスポンサー渉外を経験し、編成局長、メディアビジネス局長を経て2022年にTBSホールディングス常務取締役に就任しました。

2023年からは法務・リスクマネジメント室と内部監査部門を統括するコンプライアンス担当にも任命され、ガバナンス強化ロードマップを社内外に示してきた中心人物として知られていました。

常務・取締役としてのキャリアと担当領域

常務就任後の井田氏は、放送事業以外にデジタル配信、海外フォーマット交渉など新規事業も管轄。

年間千件を超える番組タイアップやイベント協賛の承認フローを最終決裁する立場にあり、交際費関連の承認権限も極めて大きかった点が特徴です。

ゆえに組織としては「上位者が決裁する=適正」という心理が働き、現場の牽制が弱まった側面が指摘されています。

コンプライアンス担当としての立場と組織内の位置づけ

TBSHDでは、社長直轄の「コンプライアンス推進委員会」が四半期ごとに開催され、井田氏はその実務責任者でした。

また、匿名通報窓口の最終報告受領者となっており、違反情報が集約される中枢ポジションでもありました。

今回の不正は、その権限集中構造が裏目に出た典型例とされ、海外投資家からは「スリーラインディフェンスの欠落」を指摘する声が上がっています。

辞任の経緯と処分内容

TBSHDは調査結果を受け、井田氏に対し①辞任勧告、②不正金額の全額返還、③役員退職慰労金の不支給を決定しました。

本人は「社内ルールの認識不足」と釈明したものの、会見で具体的根拠を示さず批判が集中。

刑事告訴は見送られたものの、株主代表訴訟リスクが残るため、今後の法的責任追及が注目されています。

不正精算はなぜ起きたか:交際費フローとコンプラの盲点

交際費は営業機能に不可欠ですが、現金同等物を外部とやり取りする性質上、不正の温床になりやすい項目です。

今回のケースでは、①権限者と証憑確認者が同一部署、②システム化が遅れ紙領収書を前提とした運用、③チェック担当が権限者の部下という三つの盲点が重なりました。
結果として、形式的な承認印が押されるだけで内容妥当性が検証されず、改ざんが容易になっていたとみられます。

交際費精算の基本ルールと社内チェック体制

一般的に上場企業では、交際費申請書に①目的、②参加者、③金額、④エビデンス(領収書)を添付し、上長→部門長→経理の順で承認します。

経理部門はランダム抽出で裏付け資料を追加請求し、規程違反がある場合は差戻し。

TBSHDでも同様のルールが存在しましたが、常務クラスの申請については承認プロセスが簡略化され、経理は金額チェックのみに留まっていたことが報告書で明らかになっています。

代表的な不正パターン:領収書改ざん・虚偽申請・グレーゾーン処理

企業の交際費不正は大きく以下の三つに分類されます。

  • 領収書改ざん:白紙領収書を後から記入、日付を書き換え同一領収書を重複利用
  • 虚偽申請:実際に会食が行われていない、もしくは私的飲食を業務名目に変換
  • グレーゾーン処理:社内会議費を外部接待費に付け替え、税務上の損金枠を拡大

内部統制の課題:牽制機能が働かなかった構造要因

今回のように上位者が不正主体の場合、縦割り組織では下位者が正当に異議を唱える仕組みが弱いことが課題です。
欧米で普及する「スリーラインディフェンス」では、業務部門・リスク管理部門・内部監査が独立して機能する設計ですが、TBSHDではリスク管理と業務部門を同一役員が統括していたため、牽制が機能不全に陥りました。

「コンプラ担当がなぜ?」の核心:役割と現場運用のズレ

コンプラ担当者は“規程を書く人”ではなく“規程を守らせる人”でなければ意味がありません。
ところが多くの日本企業では、担当部門が社内教育資料の作成やリスクアセスメント報告書を作るだけで、現場の実査や抜き打ち監査に踏み込めていない現状があります。
TBSHDのケースは、制度設計と運用が乖離した典型例であり、紙上では完璧なルールでも、現場で実効性が伴わなければ不正は防げないことを示しています。

コンプラ担当の本来業務:予防・教育・監査との違い

コンプライアンス担当は①法令・社内規程の整備(予防)、②従業員教育と相談窓口(教育)、③内部監査やモニタリング(監査)の三機能をバランス良く担う必要があります。

特に③監査機能は独立性が命で、業務部門から切り離されていなければ牽制になりません。

井田氏の場合、予防・教育を自ら設計しつつ監査も握っていたため、「自分で作ったルールを自分で監査する」矛盾が生じていました。

担当者が当事者化する典型パターン:権限集中とチェックの形骸化

役員クラスが“コンプラ担当”と“業務執行”を兼務する場合、決裁印が実質フリーパスになるリスクが増大します。

チェック担当者は上位者の印鑑を前に疑義を口にしにくく、ダブルチェックが形式化。

また、内部通報を受けても最終受領者が当事者であれば握り潰しが可能となり、早期発見の芽が摘まれます。

再発防止に必要な設計:承認権限・監査・通報の独立性

再発防止策として最も重要なのは“機能的分離”です。

①承認権限を複数役員がクロスチェック、②内部監査部門の取締役会直轄化、③通報窓口を外部専門機関に委託することで、権限集中を防ぎます。

さらに、経費精算システムをクラウド化しAIで異常検知を自動化するなど、テクノロジーによる牽制も有効です。

再発防止策 期待効果
承認フローのクロスチェック 権限乱用の抑止
外部通報窓口 早期発見と報復防止
AI異常検知 大量データからのパターン把握

企業の説明責任と法的論点:役員責任とガバナンス

上場企業には金融商品取引法や会社法に基づく開示義務が課され、内部統制報告書で不備を認定された場合は経営陣の責任問題に発展します。
取締役が善管注意義務を怠ったと認定されると、株主代表訴訟で損害賠償を請求されるリスクも高まります。
TBSHDのケースでは、不正精算による直接損害額は660万円ですが、ブランド価値毀損やスポンサー離脱による間接損失は数十億円規模に及ぶ可能性があり、役員の賠償責任範囲が注目されています。

取締役・役員の監督責任:コンプライアンス違反時の一般的論点

役員は内部統制システム構築義務を負い、違反時には①任務懈怠責任(会社法423条)、②善管注意義務違反が問われます。

判例上、経営判断原則の適用範囲外とされ、注意義務違反が認められやすい点が特徴です。

加えて、日本版SOX法に基づく内部統制報告書で重大な欠陥が指摘されれば、代表取締役の虚偽記載罪リスクにもつながります。

刑事責任と民事上の損害賠償:どこからが「不正」か

経費精算の不正が刑事罰に発展するかは、①会社資金を私的流用し『横領罪』が成立するか、②偽造領収書作成により『有印私文書偽造罪』が成立するか、が判断基準です。

660万円規模でも繰り返し行為であれば“常習性”が認定され、量刑は加重されます。

一方、会社が告訴しない場合は刑事事件化せず、民事で損害賠償請求に留まるケースが多いですが、上場企業では社会的影響を考慮し告訴する例が増えています。

調査・処分・返金の見通しと社内対応の焦点

TBSHDは第三者委員会の最終報告を受領後、2026年3月期の有価証券報告書で内部統制の是正状況を開示予定です。

社内的には、不正精算に関与した補佐職2名を懲戒解雇、経理部門の承認担当者3名を減給処分とし、関係部署に対する再教育プログラムを実施。

返金はすでに完了し、損益計算書への影響は軽微とされていますが、投資家説明会では「ガバナンスの再構築策」が質疑の中心となる見込みです。

メディア業界への波及:フジテレビ比較と業界共通の課題

テレビ局は広告収入依存度が高く、スポンサーからの信頼が生命線です。
2025年11月にフジテレビでも似た不正精算事案が発覚したことで、業界全体の交際費管理体制が問われるようになりました。
放送法による公共性の高さから、一般事業会社以上に説明責任が厳しく、株主だけでなく視聴者・広告主という多層ステークホルダーに対し迅速な情報開示が求められます。

放送局のガバナンスと不祥事対応:TBSとフジテレビの比較視点

項目 TBSHD フジテレビ
不正件数 180件 95件
不正額 約660万円 約420万円
関与者 常務取締役 部長級
外部委員会の有無
刑事告訴 未定 告訴せず

交際費・会食文化と透明性:業界共通の論点

番組制作にはスポンサー接待や出演者との“顔合わせ”として会食が多用される文化があります。

一方で相手先人数が多く領収書の記載が曖昧になりやすく、税務上の証明責任を果たせないケースが散見されます。

業界団体はガイドラインを設けていますが、実効性は各社任せで、従来の慣習にメスを入れにくい点が課題といえます。

スポンサー・視聴者への影響とブランドリスク

不祥事報道が続くと、スポンサーは『ブランド毀損リスク』を懸念してタイアップを見送る傾向があります。

視聴者も“信頼できる情報源”としての放送局に高い倫理性を求めるため、SNSではボイコット運動が発生しやすい構造です。

結果として広告単価の下落や配信プラットフォーム離脱が連鎖し、収益モデル全体に波及するリスクがあります。

読者Q&A:よくある疑問と情報の確認方法

ここでは読者から寄せられる典型的な質問を取り上げ、一次情報の調べ方や真偽確認のポイントを示します。

疑問を持ったときに自ら検証する姿勢が、フェイクニュースに惑わされない最善策です。

「不正」と「不適切」の違い:規程違反と詐欺的行為の境界線

企業リリースでよく使われる『不適切な会計処理』という表現は、必ずしも犯罪行為を意味しません。

社内規程違反でも意図的な虚偽がなければ“ミス”と判断される場合があります。

一方、領収書の偽造や架空取引は『不正』であり、刑事罰の対象となり得る点が大きな違いです。

TBS不正精算問題から学ぶコンプラ実務と再発防止策

TBSHDの不正精算事案は、コンプラ担当自らがルールを破ったことで内部統制の根幹が揺らいだ点に最大の教訓があります。

交際費という日常的なコストでも、チェック機能が麻痺すれば不正は容易に拡大することを示しました。

今回の核心ポイントとして、①権限集中が牽制を無効化、②紙ベース運用が改ざんを助長、③通報窓口が機能不全という三つの課題が浮き彫りになりました。

これらは業界や企業規模を問わず共通のリスクです。

企業が取り組むべき対策:精算ルール強化・監査・通報体制の改善

  • クラウド精算システム導入で証憑を電子保存
  • 内部監査を取締役会直轄にして独立性を確保
  • 外部弁護士による通報窓口で報復リスクを排除
  • 役員へのガバナンス教育を年次必修化

今後の注目点:追加発表と再発防止策の実効性

TBSHDは2026年5月の定時株主総会で再発防止策の進捗を報告予定です。

投資家・スポンサーがその実効性をどう評価するかが、ブランド回復の試金石となるでしょう。

文:Maiko-san


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